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東京地方裁判所 昭和62年(行ウ)137号 判決 1989年4月26日

東京都府中市晴見町四丁目一〇番一号

府中刑務所内

原告

三浦正久

東京都目黒区中目黒五丁目二七番一六号

被告

目黒税務署長

佐藤清勝

東京都千代田区露が関三丁目一番一号

被告

国税不服審判所長

小酒禮

右被告両名指定代理人

林菜つみ

石黒邦夫

右被告目黒税務署長指定代理人

菱田次男

青木与志次郎

増渕実

右被告国税不服審判所長指定代理人

八木幹雄

加藤広治

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告目黒税務署長が昭和五九年九月三日付けでした原告の昭和五八年分所得税の更正のうち総所得金額二五〇万〇三五〇円、納付すべき税額二三万二〇〇〇円を超える部分及び重加算税賦課決定を取り消す。

2  被告国税不服審判所長が昭和六二年七月二九日付けでした原告の昭和五八年分所得税につき目黒税務署長によつてされた更正及び重加算税賦課決定に対する原告の審査請求を棄却する旨の裁決を取り消す。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  更正及び重加算税賦課決定

原告は、昭和五九年三月一四日、原告の昭和五八年分所得税につき、総所得金額(事業所得金額)二五〇万〇三五〇円、納付すべき税額二三万二〇〇〇円との確定申告(以下「本件確定申告」という。)をしたところ、被告目黒税務署長(以下「被告署長」という。)は、昭和五九年九月三日、総所得金額八七八二万四一六九円、納付すべき税額五一一三万六七〇〇円とする旨の更正(以下「本件更正」という。)及び重加算税の額を一五二七万円とする旨の重加算税賦課決定(以下「本件賦課決定」といい、本件更正と併せて「本件処分」という。)をした。

2  不服申立て

原告は、昭和五九年一〇月二〇日、被告署長に対して本件処分に対する異議申立てをしたが、被告署長が右異議申立て後三か月を経過しても異議決定をしなかつたので、原告は、昭和六〇年二月一三日、被告国税不服審判所長(以下「被告所長」という。)に対して審査請求をした(以下「本件審査請求」という。)ところ、被告所長は、昭和六二年七月二九日付けで右審査請求を棄却する旨の審査裁決(以下「本件裁決」という。)をし、右裁決書謄本は、同年八月二二日、原告に送達された。

3  違法事由

(一) 本件処分の違法

(1) 本件処分には、原告の昭和五八年分の所得金額を計算する上で原告に有利となる、原告が木藤米吉に対して有する貸金債権五〇〇〇万円につき津島己喜蔵が保証した事実を証する念書の写しや借用証書の写し(甲第六号証及び第一九号証の四。以下「本件念書等」という。)を、了知しながらあえて判断の資料にしないで、所得金額を計算した違法がある。

(2) 原告の昭和五八年分の総所得金額は二五〇万〇三五〇円であるところ、本件処分は原告の総所得金額を過大に認定した違法があり、右認定に伴う本件賦課決定も違法である。

(二) 本決裁決の違法

本件裁決には、その審理において、原告から提出した本件念書等、その他の原告の昭和五八年分所得税を計算する上で原告に有利となる預金通帳等の書類を取り調べず、また、原告が主張した不服事由及び貸倒損失の発生等の事実について調査しなかつた違法があり、さらに、右のとおり違法な審理に基づいたことにより、原告の所得を誤認して過大に認定した違法がある。

4  よつて、原告は、本件処分につき請求の趣旨1に記載の範囲の本件裁決につきその全部の、取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2の事実は認める。

2  (被告署長)

同3の(一)の事実は否認し、主張は争う。

(被告所長)

同3の(二)の事実は否認し、主張は争う。なお、原告の所得の誤認に関する主張は、本件更正の違法を理由とするものであるから、行訴法一〇条二項により本件裁決の違法事由とすることができない。

三  抗弁

1  被告署長

(一) 原告の昭和五八年分の総所得金額

(1) 事業所得の金額

原告は、本件確定申告における確定申告書に昭和五八年分の事業所得の損失金額として一〇九万九六五〇円と記載しているが、原告は、同年中において、事業所得を生ずべき事業を行つていないから、同年分の事業所得の金額は〇円である。

(2) 雑所得の金額 九一三四万一三一〇円

次の<1>ないし<4>の収入金額の合計一億六一一七万一〇〇〇円から<5>の必要経費の計二〇四六万〇一九〇円及び<6>の商品取引損失四九三六万九五〇〇円を控除したものである。

<1> 受取手数料 一億五〇〇〇万〇〇〇〇円

原告が津島己喜蔵及び桜井恒雄の土地の譲渡所得に係る脱税事件に関与し、右両名の所得税を免れるために行つた脱税工作(以下「本件脱税工作」という。)の報酬として、昭和五八年三月一四日、津島己喜蔵の子である津島テル子及び桜井恒雄から受領した金額である(以下、これを「本件手数料」という。)。

<2> 受取割引料 三〇五万〇〇〇〇円

原告が、以下(ⅰ)ないし(ⅲ)のとおり、津島テル子が有する預金小切手を割り引いた際に、同人から受領した割引料の合計額である。

(ⅰ) 昭和五八年三月三〇日に一億〇〇〇二万円の預金小切手を割り引き、二四二万円の割引料を受領した。

(ⅱ) 同年四月一九日に六〇〇一万円の預金小切手を割り引き、三八万円の割引料を受領した。

(ⅲ) 同月二八日に四〇〇一万円の預金小切手を割り引き、二五万円の割引料を受領した。

<3> 受取利息 七五二万一〇〇〇円

次に掲げる者に対する貸付金に係る受取利息である。

(ⅰ) 三立企画工業に係るもの 三七四万一〇〇〇円

(ⅱ) 南西物産株式会社に係るもの 一五万〇〇〇〇円

(ⅲ) 吉田安毅に係るもの 二三七万〇〇〇〇円

(ⅳ) 村上秀治に係るもの 一二六万〇〇〇〇円

原告は昭和五八年中に村上秀治に対し六〇〇万円を月利三分の約定で貸し付け、同年六月から同年一二月までの間に一二六万円の利息を受領した。

<4> 雑収入 六〇万〇〇〇〇円

原告が、津島テル子、桜井恒雄及び三立企画の代表取締役富成昭英から、原告の事務所開設祝金等の名目で受領した金額の合計額である。

<5> 必要経費 二〇四六万〇一九〇円

(ⅰ) 租税公課 一万二〇〇〇円

(ⅱ) 水道光熱費 一六万三四七〇円

(ⅲ) 旅費交通費 三一万五〇〇〇円

(ⅳ) 通信費 七一万〇八〇〇円

22003948.txt(ⅴ) 接待交際費 一五二万一〇〇〇円

原告が必要経費として申告した金額五二万一〇〇〇円と、原告の貸付先である三立企画の従業員の接待に要した費用一〇〇万円との合計額である。

(ⅵ) 消耗品費 七万六〇〇〇円

(ⅶ) 訴訟費用 六万〇五四〇円

原告が本件脱税工作の一環として、昭和五八年二月二三日、東京地方裁判所に提起した津島己喜蔵及び桜井恒雄に対する保証債務履行請求訴訟及び中野簡易裁判所に申し立てた即決和解申立事件に関して要した印紙代、送達料、交通費等の合計額である。

(ⅷ) 支払手数料 一〇二五万〇〇〇〇円

原告が昭和五八年中において、次の(a)ないし(c)のとおり、本件手数料の取得に関連して支払つた手数料及び謝礼金の合計額である。

(a) 大森誠造に対するもの 七〇〇万〇〇〇〇円

(b) 河田信幸に対するもの 三〇〇万〇〇〇〇円

(c) 富成昭英に対するもの 二五万〇〇〇〇円

(ⅸ) 支払報酬 四〇〇万〇〇〇〇円

原告が本件脱税工作を行うに際し、弁護士、税理士等に支払つた報酬の合計額である。

(ⅹ) 雑費 二〇八万五九八〇円

原告が必要経費として申告した金額八万五九八〇円と、次の(a)ないし(e)のとおり、原告が本件脱税工作に要したタクシー代等の金額二〇〇万円との合計額である。

(a) 小森教尚に支払つた日当 一〇〇万〇〇〇〇円

(b) 津島テル子に支払つたアパート落成祝金等 三五万〇〇〇〇円

(c) 現金運搬等に要したタクシー代 三〇万〇〇〇〇円

(d) 津島テル子及び桜井恒雄に対する中元歳暮代 一〇万〇〇〇〇円

(e) その他の雑費 二五万〇〇〇〇円

(xi) 地代家賃 一二六万五四〇〇円

<6> 商品取引損失 四九三六万九五〇〇円

原告が昭和五八年中に商品(大豆)先物取引を行い、これにより被つた損失額である。

(3) 利子所得の金額 二〇万六〇一九円

原告が昭和五八年において中期国債フアンドを解約したことによる利息収入である。

(4) まとめ

以上(1)ないし(3)の所得の合計九一五四万七三二九円が原告の昭和五八年分の総所得金額である。

(二) 本件処分の適法性

右(一)のとおり、昭和五八年分の総所得金額は九一五四万七三二九円であるところ、本件更正における総所得金額(八七八二万四一六九円)はその範囲内にあるから、本件更正は適法である。

(三) 本件賦課決定の適法性

原告は、本件脱税工作により受領した本件手数料一億五〇〇〇万円に係る所得税を免れる目的で、原告を貸主、木藤米吉を借主、津島己喜蔵を連帯保証人とする七億五〇〇〇万円の金銭消費貸借契約書を偽造し、さらに、右債権が存在していたかの如く装うための裁判上の和解工作を行うことにより、原告が受領した本件手数料を右貸付けに係る回収金のように仮装して、本件申告をした。右は、国税通則法六八条一項に規定する「課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出したとき」に当たるので、本件更正により納付すべきこととなつた税額に関し、過少申告加算税に代えて重加算税を解することとした本件賦課決定は適法である。

2  被告所長

本件念書等は、原告の昭和六一年(あ)第三七五号所得税法違反被告事件の上告趣意書(写し)とともに本件審査請求に係る原告の代理人から担当審判官に証拠書類として提出されており、本件裁決の審理は国税通則法所定の審理手続により行われているから、本件裁決には審理不尽、事実誤認の違法はない。

四  抗弁に対する認否

1  被告署長の抗弁に対する認否

(一) (一)の(1)の事実は認める。

(二) (一)の(2)について

(1) (1)の事実のうち、原告が津島テル子及び桜井恒雄から一億五〇〇〇万円を受領したことは認めるが、右金員は預かり金である。そのうちの五〇〇〇万円は、原告が昭和五一年三月ころから同年六月ころまでの間に木藤米吉に対して貸し付けた貸付金の元利合計金五〇〇〇万円につき、津島己喜蔵が同年一〇月末又は一一月始めころに保証した保証債務の弁済に充当したものである。残金一億円はその後精算し、そのうちの五〇〇〇万円は報酬として受け取り、その余は原告が本件脱税工作に要した費用等に充当することとしたが、右一億円の殆どが本件脱税工作の費用等に費消されている。したがつて、右一億五〇〇〇万円の収入に係る雑所得は発生しない。

(2) <2>の(ⅰ)は、割引日、割り引いた預金小切手の金額については認め、割引料については八二万円の限度で認め、右金額を超える割引料を受領したことは否認する。同(ⅱ)、(ⅲ)の事実は認める。

(3) <3>の(ⅰ)ないし(ⅲ)の事実は認める。同(ⅳ)は、原告が村上秀治に対し昭和五八年中に六〇〇万円を貸し付け、同年中に四五万〇四二六円の利息を受領したことは認め、その余の事実は否認する。

(4) <4>の事実は認める。

(5) <5>の(ⅰ)ないし(ⅳ)、(ⅵ)、(ⅸ)ないし(xi)の事実は認める。同(ⅴ)の事実は認めるが、このほかにも原告は桜井恒雄に対して四二〇万円の接待費を支出している。同(ⅶ)の事実は認めるが、このほかにも原告は三七六万三一六〇円の訴訟費用を支出している。同(ⅶ)の事実は認めるが、そのうちの(b)については、河田信幸に対して支払つた謝礼金が八〇〇万円であるので、(b)の金額のほかに五〇〇万円の謝礼金を支出している。また、このほかにも、原告は河田エイに対して本件脱税工作の口止料として一二五〇万円を支払つている。

(6) <6>の事実は認める。

(三) (一)の(3)の事実は認め、(4)は争う。

(四) (二)、(三)は争う。

2  被告所長の抗弁に対する認否

本件念書等が本件裁決の審理において証拠書類として提出されていた事実は否認し、主張は争う。

五  再抗弁

1  貸倒損失 五六九七万二二三八円

原告は、次の(一)ないし(三)に記載の債権を有していたが、いずれも回収ができず貸倒れとなつたから、右債権の貸倒額は貸倒損失として所得の計算上必要経費に算入されるべきである。なお、債権の貸倒れは、債権の回収が法的に不能になることを要件とするものではなく、社会通念上客観的に回収不能となれば認められるものであり、また、債権の貸倒れが生じた時期が昭和五八年中ではなくても、貸倒れの事実が発生したものについては、同年分における損失とすることができるものである。

(一) 株式会社高原牧場に係るもの一〇〇万〇〇〇〇円

(1) 株式会社高原牧場は原告に対し、昭和五一年ころ、それまでに原告が立て替えた二〇〇万円を返還する旨約束した。しかし、同会社は、その後一〇〇万円を支払つたものの残金一〇〇万円を支払わなかつたので、原告は右同額の損害を被り、そのうちの二〇万円につき同会社を被告として東京地方裁判所八王子支部昭和五五年(ワ)第一五〇六号損害賠償請求事件を提起し、昭和五八年一月一三日、同社に対し右金額の支払を命ずる旨の判決が出され、同判決は確定した。

(2) 株式会社高原牧場は昭和五五年中に事実上倒産しており、同会社には資産はなく、原告は、同会社に対し右判決に係る債権につき倒産執行の申立てをしていたが、昭和五八年五月二〇日、右申立てを取り下げ、同時に右債権につき債務免除をする旨の意思表示をし、右債権は回収不能となつた。

(二) 尾崎恭彦に係るもの一〇万〇〇〇〇円

(1) 原告は、尾崎恭彦を被告として静岡地方裁判所浜松支部昭和五二年(ワ)第九九号損害賠償請求事件を提起し、同年一〇月一四日、同人に対し二〇万円の支払を命ずる旨の判決が出され、同判決は確定した。

なお、原告は、昭和五五年九月までの間に、右債権のうちの一〇万円について免除した。

(2) 尾崎恭彦は昭和五五年九月一一日死亡し、尾崎克典が相続したが、同人には資産はなく、原告は同人に対し、昭和五八年六月ころ、右判決に係る債権残額一〇万円につき債権の放棄又は債務免除をする旨の意思表示をし、右残債権は回収不能となつた。

(三) 丸藤興業株式会社に係るもの四五万〇〇〇〇円

(1) 原告は、丸藤興業株式会社を被告として東京地方裁判所昭和五四年(ワ)第二九六一号損害賠償請求事件を提起し、昭和五四年六月二六日、同社に対し五〇万円の支払を命ずる判決が出され、同判決は決定した。

(2) 丸藤興業株式会社は昭和五六年ころ破産して倒産したところ、同会社の債務は元代表者櫛引藤司により引き受けられたが、同人は生活保護を受けるなど資力が無かつたので、原告は、昭和五八年六月二〇日、同人に対し、右判決に係る債権のうち五万円の支払を条件に残金四五万円につき債務免除をする旨の意思表示をし、右残金四五万円の債権は回収不能となつた。

(四) 長脇史郎に係るもの三六七万〇〇〇〇円

(1) 原告は、長脇史郎に対し六九〇万円を寄託していたところ、そのうち三一〇万円の返還を受けたが、残金の返還がないため、そのうちの三〇万円につき同人を被告として葛飾簡易裁判所昭和五四年(ハ)第四九号寄託金返還請求事件を提起し、同年一二月二〇日、同人に対し右金額の支払を命ずる旨の判決が出され、同判決は確定した。なお、原告は昭和五六年中に一三万円の返還を受け、寄託金残債権の額は三六七万円となつた。

(2) 原告は、昭和五八年二月三日、右判決に基づき倒産執行の申立てをし、六万二〇〇〇円相当の価額の動産を差し押さえたが、後日、長脇史郎に資力がないことが分かつたので右動産執行事件を取り下げ、同年七月一一日、同人に対し右判決に係る寄託金残債権につき債務免除する旨の意思表示をし右寄託金残債権は回収不能となつた。

(五) 田島勇次に係るもの四二〇万九八四八円

(1)<1> 原告が田島勇次を被告として提起した東京地方裁判所昭和五二年(ワ)第八九八〇号事件において、昭和五三年三月三日、田島勇次が原告に対し三〇万円及びこれに対する同年九月末日から支払ずみまで年一割の割合による遅延損害金を支払う旨の和解が成立した。

(2) 原告が田島勇次を相手方として申し立てた東京簡易裁判所日比谷分室昭和五四年(ロ)第一八八号支払命令申立事件において、同年三月二八日、同人に対し四〇〇万円及びこれに対する同年五月九日から年五分の割合による遅延損害金の支払を命ずる支払命令が出され、同命令は確定した。

(3) 原告は、昭和五八年当時、田島勇次に対し、右<1>の債権について昭和五三年九月末日から昭和五八年九月末日までに発生した遅延損害金一五万円、右<2>の債権について昭和五四年五月九日から昭和五八年五月九日までに発生した遅延損害金八〇万円及び右の各元本債権額の合計五二五万円の債権を有していたところ、昭和五七年中に三四万〇一五二円及び五万円の各支払を受け、また、その後遅延損害金の一部を免除し、残債権の額は四二〇万九八四八円となつた。

(2) 原告は、昭和五八年一一月ころ、田島勇次に対し、同人が支払能力を有しないことが判明したので、右(1)の<3>の残債権につき債務免除する旨の意思表示をし、右残債権は回収不能となつた。

(六) 株式会社丸富に係るもの三〇〇万〇〇〇〇円

(1) 原告は、株式会社丸富を被告として東京地方裁判所昭和五五年(ワ)第一三二〇号立替金請求事件を提起し、昭和五六年三月二六日、同社に対し三〇〇万円の支払を命ずる判決が出され、同判決は確定した。

(2) 株式会社丸富は、昭和五六年には事務所を閉鎖し、役員は所在不明となつた。原告は、昭和五八年一一月ころ、同会社の行方不明中の元代表取締役菊池正敏に対し、右判決に係る債権につきその放棄又は債務免除する旨の意思表示をし、右債権は回収不能となつた。

(七) 山和通商株式会社(同社の商号は、当初「太洋ラジカル株式会社」であつたが、「株式会社アコスインターナシヨナル」と変更され、その後「山和通商株式会社」と変更されている。)に係るもの一五〇万〇〇〇〇円

(1) 原告は、山和通商株式会社を相手方として浜松簡易裁判所昭和五二年(ノ)第五〇号立替金支払調停事件を提起し、同年五月二日、同社が原告に対し一五〇万円支払う旨の民事調停が成立したが、これについて履行がなく、右不履行に基づく損害につき、同社を被告として東京地方裁判所昭和五六年(ワ)第一二二四九号損害賠償請求事件を提起し、昭和五七年二月二二日、同社に対し一五〇万円の支払を命ずる判決が出され、同判決は確定した。

(2) 山和通商株式会社(当時、太洋ラジカル株式会社)は昭和五三年ころ一旦倒産し、その後商号を変更して営業を始めたが、再度倒産して現商号となつた。原告は、昭和五八年一一月ころ、同会社の代表者原田に対し、右判決に係る債権につき債務免除する旨の意思表示をし、右債権は回収不能となつた。

(八) 青野勘一に係るもの一八四万二三九〇円

(1) 原告は、青野勘一を被告として東京地方裁判所昭和五三年(ワ)第四一二五号保証金返還請求事件を提起し、同年七月二〇日、同人が原告に二〇〇万円を支払う旨の和解が成立した。なお、原告はその後一五万七六一〇円の支払を受け、残債権額は一八四万二三九〇円となつた。

(2) 青野勘一には収入及び資産がなく、原告は昭和五八年四月一三日に右残債権につき申立中の強制執行事件を取り下げ、併せて同人に対し、右残債権につき債務免除する旨の意思表示をし、右残債権は回収不能となつた。なお、同人は昭和五九年三月三〇日に死亡した。

(九) 佐藤に係るもの二五〇万〇〇〇〇円

(1) 原告は、佐藤を被告として東京地方裁判所八王子支部昭和五六年(ワ)第二八五号寄託金請求事件を提起し、昭和五八年一一月二八日、同人に対し二五〇万円の支払を命ずる判決が出され、同判決は確定した。

(2) 佐藤は資力がなく、原告は、昭和五八年一二月初めころ、佐藤に対し右判決に係る債権につき債務免除する旨の意思表示をし、右債権は回収不能となつた。

(一〇) 斎藤大三に係るもの四七〇万〇〇〇〇円

(1) 原告は、原告の母三浦久代の斎藤滝三に対する受遺金債権五〇〇万円を相続した。

(2) 原告は、斎藤滝三を相続した斎藤大三を被告として仙台地方裁判所に右(1)の債権の支払請求事件を提起し、昭和五八年に同人が原告に三〇万円を支払、原告はその余の四七〇万円の支払を免除する旨の和解が成立し、右免除に係る四七〇万円につき回収不能となつた。

(一一) 河田信幸に係るもの一〇〇〇万〇〇〇〇円

(1) 原告は、昭和五八年中に、河田信幸に対し一〇〇〇万円を貸し付けた。

(2) 河田信幸は、同人名義のマンシヨンの買受代金債務のほか多額の債務を負担しており、また、昭和五八年の当時、右マンシヨンには極度額七〇〇万円の根抵当権が設定されていてその担保価値はなく、同人には返済能力はなかつたものであるから、右(1)の貸金債権は同年中に回収不能となつた。

(3) 仮に右(1)の貸金債権が昭和五八年中に回収不能となつた事実が認められないとしても、その後、原告と河田信幸との間の東京地方裁判所昭和六〇年(ワ)第四一九一号事件外において、右貸金債権に関して同人が原告に対し七〇〇万円を分割して支払う旨の和解が成立したが、河田信幸には右(2)のとおり資力がなく、右の和解による債務も履行されないままであつた。また、同人が所有するマンシヨンには右(2)の根抵当権のほかに、さらに、債権額がそれぞれ六五九万円、五〇万円及び五〇〇万円の抵当額が設定され、その担保価値は全くなかつたものであり、同人から右(1)の貸金債権を回収することは不可能となつた。

(一二) 河田エイに係るもの一七五〇万〇〇〇〇円

(1) 原告と河田エイは、原告が河田エイを被告として提起した東京地方裁判所昭和六〇年(ワ)第四四四五号事件において、同年七月二二日、それまでの原告の河田エイに対する賃金債権につき、河田エイが原告に対し一五五〇万円の支払義務があることを認める旨の和解が成立した。

(2) 原告は、河田エイが富成昭英から借り入れた二〇〇万円につき、昭和五八年三月、河田エイに代わつて立替返済した。

(3) 河田エイは資力がなく、原告は右(1)の和解に係る貸金債権及び右(2)の立替金債権のいずれについてもその返済を受けておらず、また、右の和解後もその履行を受けていないように、同人から右各債権を回収することは不可能となつた。

(一三) 西新宿物産株式会社に係るもの六五〇万〇〇〇〇円

(1) 原告は西新宿物産株式会社に対し、同社振出の手形を割り引く方法で六五〇万円を貸し付けており、右貸金債権につき同会社被告として東京地方裁判所昭和六一年(ワ)第九二産九号事件を提起し、昭和六産年一月二九日、同社に対し右金額の支払を命ずる判決が出され、同判決は確定した。

(2) 右(1)の貸付けに係る手形は昭和五八年七月不渡りとなり、同月一三日ころ、同社は負債約八〇〇〇万円を抱えて倒産し、原告は右(1)の貸金債権を放棄又は債務免除する旨の意思表示をした。また、右(1)の貸金債権の保証人であつた海谷侑宏及び海谷有孝には資産がなく、同人らからの支払の見込みもないので、右(1)の貸金債権はそのころ回収不能となつた。

2  その他の所得の計算上収入金額から控除されるべき金額 二二〇〇万〇〇〇〇円

原告は、昭和五八年三月、河田エイに対し、同人から借り受けていた二二〇〇万円を返済したので、右返済額は原告の所得金額の計算上収入金額から免除されるべきである。

六  再抗弁に対する認否及び反論(被告ら)

1  再抗弁1について

(一) 冒頭部分の主張は争う。

(二) (一)は、(1)のうち、原告主張の判決が出され、同判決が確定したことは認め、原告主張の債権が昭和五八年中に回収不能になつたことは否認し、その余の事実は知らない。

仮に原告主張の債権が存在するとしても、原告の昭和五八年分の所得は雑所得による所得しかないから、右債権に係る貸倒損失が雑所得の金額の計算上必要経費と認められるためには、所得税法五一条四項の規定により、当該貸倒損失が雑所得を生ずべき業務の用に供され若しくはその所得の基因となる債権の貸倒れによる損失である必要がある。しかし、右債権は、違約金支払請求債権であつて、雑所得を生ずべき業務の用に供された債権ではない。また、株式会社高原牧場は昭和五五年当時からすでに無資力であり、右債権は昭和五八年中に回収不能になつたものではない。

(三) (二)は、(1)のうち、原告主張の判決か出され、同判決が確定したこと、(2)のうち、尾崎恭彦が昭和五五年九月一一日に死亡したことは認め、原告主張の債権が昭和五八年中に回収不能になつたことは否認し、その余の事実は知らない。

仮に原告主張の債権が存在するとしても、右債権は損害賠償債権であつて、雑所得を生ずべき業務の用に供された債権ではない。また、尾崎恭彦は、その死亡当時既に無資力であり、右債権は昭和五八年中に回収不能になつたものではない。

(四) (三)は、(1)の事実は認め、(2)は、原告主張の債権が回収不能になつたことは否認し、その余の事実は知らない。

原告主張の債権は損害賠償債権であつて、雑所得を生ずべき業務の用に供された債権ではない。また、原告は、昭和五八年六月一五日、右債権の取立を小林利治に依頼し、同月二〇日に五万円の支払を受けており、その後同年中に、右債権が回収不能となつた事情はないから、右債権は同年中に回収不能になつたものではない。

(五) (四)は、(1)のうち、原告主張の判決が出され、同判決が確定したこと、原告が長脇史郎から昭和五六年中に一三万円の返還を受けたこと、(2)のうち、原告主張の動産執行を申し立てたことは認め、原告主張の債権が昭和五八年中に回収不能になつたことは否認し、その余の事実は知らない。

仮に原告主張の債権が存在するとしても、右債権は雑所得を生ずべき業務の用に供されたものではなく、また、原告は、右債権により雑所得となる収入を得ていないので、右債権は雑所得の基因となる債権でもない。

(六) (五)は、(1)の<1>、<2>の事実は認め、<3>の事実は知らず、(2)は、原告主張の債権が昭和五八年中に回収不能になつたことは否認し、その余の事実は知らない。

仮に原告主張の債権が存在するとしても、右債権は雑所得を生ずべき業務の用に供されたものか、あるいは、雑所得の基因となる債権であるのか、いずれも不明である。

(七) (六)は、(1)の事実及び(2)のうち、株式会社丸富が昭和五六年には事務所を閉鎖し、役員が所在不明であつたことは認め、原告主張の債権が昭和五八年中に回収不能になつたことは否認し、その余の事実は知らない。

原告主張の債権は損害賠償請求債権であつて、雑所得を生ずべき業務の用に供された債権ではない。また、株式会社丸富は昭和五六年には事実上倒産しており、右債権はその当時から回収不能の状態にあつたものであり、昭和五八年中に回収不能になつたものではない。

(八) (七)は、(1)の事実は認め、(2)は、原告主張の債権が昭和五八年中に回収不能になつたことは否認し、その余の事実は知らない。

仮に原告主張の債権が存在するとしても、右債権は雑所得を生ずべき業務の用に供されたものか、あるいは、雑所得の基因となる債権であるのか、いずれも不明である。また、山和通商株式会社は(七)の(1)の判決があつた昭和五七年当時実体のない会社であり、右債権はすでに回収不能の状態にあつたものであり、昭和五八年中に回収不能になつたものではない。

(九) (八)は、(1)のうち、原告が主張の訴訟を提起し、主張の和解が成立したことは認め、その余の事実は知らない。

仮に原告主張の債権が存在するとしても、右債権は雑所得を生ずべき業務の用に供されたものではなく、また、原告は、右債権により雑所得となる収入を得ていないので、右債権は雑所得の基因となる債権でもない。なお、原告は、昭和五七年一二月八日付け内容証明郵便をもつて、右債権を一一五万円に減額した上、三立企画工業に譲渡しているので、原告について右債権の貸倒れが発生する余地はない。

(一〇) (九)は、(1)の事実は認め、(2)のうち、原告主張の債権が昭和五八年中に回収不能になつたことは否認し、その余の事実は知らない。

原告は主張の債権により雑所得となる収入を得ていないので、右債権は雑所得の基因となる債権ではない。

(一一) (一〇)は、(1)の事実及び(3)のうち、原告が主張の訴訟を提起し、主張の内容の和解が成立したことは認め、その余の事実は否認する。

原告主張の債権は受遺金請求債権であつて、雑所得を生ずべき業務の用に供されたものではなく、また、雑所得の基因となる債権でもない。

(一二) (一一)の事実は知らない。

仮に原告の主張の債権が存在するとしても、原告は右債権により雑所得となる収入を得ていないので、右債権は雑所得の基因となる債権ではない。また、原告の主張によつても、河田信幸との間の東京地方裁判所昭和六〇年(ワ)第四一九一号事件で同人が原告に対し七〇〇万円の債務があることを確認し、これを分割して支払う旨の和解が成立しているのであるから、それより前の昭和五八年中に前記債権が回収不能の状態にあつたものとはいえない。

(一三) (一二)は、(1)の事実は認め、(2)、(3)の事実は知らない。

原告は右(1)の債権により雑所得となる収入を得ていなので、右債権は雑所得の基因となる債権ではない。また、原告の主張によつても、原告は昭和六〇年七月二二日に河田エイとの間で訴訟上の和解を行つているのであるから、それより前の昭和五八年中に右債権が回収不能の状態にあつたものとはいえない。

(一四) (一三)の事実は知らない。

原告は主張の債権により雑所得となる収入を得ていないので、右債権は雑所得の基因となる債権ではない。

2  同2は、河田エイが原告から昭和五八年三月ころ二二〇〇万円を受領したことは認め、主張は争う。原告は贈与として右二二〇〇万円河田エイに交付したものであつて、右金額は原告の所得金額の計算上経費その他の損金に算入されるものではない。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

第一本件処分の取消請求

一  請求原因1、2の事実は、当事者間に争いがない。

二  原告の昭和五八年分の総所得金額について

1  抗弁1の(一)の(1)の事実は、当事者間に争いがない。

2  雑所得の金額

(一) 収入金額について

(1) 受取手数料

<1> 成立に争いのない乙第一ないし第九号証、第一二号証、原本の存在及び成立に争いのない甲第一、第二号証によれば、以下の事実が認められる。

原告は、昭和五八年一月ころ、原告と内縁関係にあつた河田エイの子である河田信幸を介して不動産ブローカーの大森誠造を知り、同年二月、同人を通じて桜井恒雄を紹介され、同人から、津島己喜蔵の所有に係る東京都中野区丸山二丁目所在の土地の譲渡に関する同人の昭和五七年分所得税及び桜井恒雄が右土地の売買を仲介し、またその一部を買い受けて転売したことに関する同人の同年分所得税につき、脱税の相談を持ち掛けられ、これを引き受けた。原告は、脱税の方法として、貸主を原告、借主を木藤米吉、貸付金額を七億五〇〇〇万円、連帯保証人を桜井恒雄及び津島己喜蔵とする金銭消費貸借契約を作出し、津島己喜蔵及び桜井恒雄が右保証債務を履行するために右土地を譲渡し、その譲渡代金から右保証債務を支払い、その支払に係る借主に対する求債権の行使が不可能になつたように仮装するという方法を採ることにした。そして、昭和五八年二月中旬ころ、昭和五一年一〇月三〇日付けの右仮装契約を内容とする金銭消費貸借契約証書を偽造し、さらに、脱税工作の一環として、昭和五八年二月二五日、仮装した保証債務に関して、中野簡易裁判所において津島己喜蔵及び桜井恒雄を相手方とする即決和解の申立てを行つた。そして、原告は、同年三月初旬ころ、右仮装した保証債務の履行をしたような外観を作ることを、津島己喜蔵の子であり津島己喜蔵の代理人的立場で本件脱税工作に関与していた津島テル子及び桜井恒雄に指示し、昭和五七年分所得税の確定申告期限に間に合わせるため、昭和五八年三月一四日、同裁判所で津島己喜蔵及び桜井恒雄が原告に対して七億五〇〇〇万円の保証債務を連帯して履行する旨の和解を成立させ、同日、金額六〇〇〇万円の預金小切手及び現金九〇〇〇万円を受け取り、これを第一勧業銀行目黒支店の原告名義の普通預金口座(口座番号一一六〇二九九)へ入金し、さらに、同月一九日に津島テル子らをして右口座へ三億五〇〇〇万円を振り込ませ、同月二五日に原告が右三億五〇〇〇万円を引き出して津島テル子らに返還し、同人らをして同月三〇日にその内の一億五〇〇〇万円を右口座へ再度振り込ませ、総計六億五〇〇〇万円の支払があつた状態を作出し、仮装した保証債務の残金一億円については、原告が津島己喜蔵に対し新たに貸付けを行つたことにした。原告は、右のようにして振り込まれた金員のうち一億五〇〇〇万円を本件脱税工作の報酬として受領し、その内の五〇〇〇万円は同月一四日に同銀行の原告名義の普通預金口座(口座番号一〇二六六七〇)へ振替入金し、残金一億円は同月二九日に右口座へ振替入金し、その全額が貰いきりになつている。その余の仮装した保証債務の履行として振り込まれた金員はすべて引き出されて、津島テル子らに返還された。

以上の事実が認定でき、右認定に反する成立に争いのない乙第一六号証の原告の供述記載部分は前掲各証拠に照らし措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

<2> 右認定によれば、原告は昭和五八年中に一億五〇〇〇万円の収入があつたことが認められる。

ところで、原告は、右一億五〇〇〇万円のうちの五〇〇〇万円は、原告の木藤米吉に対する五〇〇〇万円の貸金債権につき津島己喜蔵が連帯保証した保証債務の履行として収受したと主張し、その本人尋問において、原告と木藤米吉との間で、甲第七号証の一ないし三二に係る原告の木藤米吉に対する債権及び同人が保証した出浦猛らに対する債権を昭和五一年一〇月三〇日ころ整理した結果、木藤米吉において元利合計金五〇〇〇万円を返済することになつたこと、しかし、原告は、木藤米吉の返済能力に疑問があつたため、保証人を付けるよう求めたところ、同人は、そのころ、津島己喜蔵が木藤米吉の原告に対する五〇〇〇万円の貸金債務につき連帯保証する旨の念書である甲第六号証(甲第一二号証の三及び第一九号証の二は、その体裁から判断して甲第六号証の原本と同じ書面の写しであると認められる。)及び同趣旨の借用証書である甲第一九号証の四の各原本を持参してきた旨供述する。

そこで検討するに、まず、甲第六号証及び第一九号証の四については、原告本人尋問の結果によれば、いずれもその原本が存在したことが一応認められ、また、原本の存在及び成立に争いのない甲第五七号証の一、二によれば、甲第六号証及び第一九号証の四にある津島己喜蔵名下の印影及び甲第一九号の四にある木藤米吉名下の印影が、それぞれ同人らの登録印の印影と同一のものであることが認められるから、反証のない限り甲第六号証及び一九号証の四の原本の成立について真正なものと推定されるものであり、右推定を覆すに足りる的確な反証はない。

しかし、その内容については、まず、原告が供述する津島己喜蔵の保証債務の前提となる甲第七号証の一ないし三二に係る貸付けを元にした木藤米吉の原告に対する主債務についてみると、原告は、その主張では昭和五一年三月ころから同年六月ころまでの間に貸し付けたものであるというのであるが、右各甲号証の中にはそれ以前の昭和四七年四月四日付けのものがあるほか、原告本人尋問の結果によれば、原告の貸付けにおける金利は一般に月三分であることが認められるところ、右各甲号証に記載されている金額の合計は二四一四万円であり、その中で作成時期が不明であるものの合計が三二五万円、昭和四七年四月四日付けのものが三〇〇万円、それ以外は昭和五一年三月一〇日以降の日付のものであつて、右の貸付利率によれば、作成日付が不明の三二五万円の貸付けが昭和三〇年代に行われ、かつ、それについての返済がされていない場合でない限り、到底その元利合計金が五〇〇〇万円に達しないものとなるが、そのような時期の貸付け及び昭和四七年四月四日付けの貸付けが右五〇〇〇万円の債務の基となる債権であるとするのは、原告の右貸付時期の主張と大きく食い違う結果になる。また、同号証の六、七、一三ないし三二については、それに記載されている木藤米吉の保証の下に原告が貸し付けた相手方であると主張する者と木藤米吉との関係が不明であり、また、その中には、原告が貸付債権の整理をした上で津島己喜蔵が保証した日であると供述する昭和五一年一〇月三〇日ころより明らかに後の日付のものが含まれており、木藤米吉が以上のものについても返済約束をしたという原告の供述部分はたやすく措信できない。以上の点に鑑みれば、主債務の存在に関する原告の供述部分はにわかに採用することができない。次に、右債務の存在を前提とする津島己喜蔵の保証債務についても、前掲乙第六ないし第八号証によると、木藤米吉及び原告と津島己喜蔵とは昭和五一年当時全く面識がなかつたことが認められるのであるから、原告の前記供述中の、木藤米吉が当時右各甲号証の原本を原告方へ持参したとする部分は措信し難いし、右供述の前提と考えられる、津島己喜蔵が当時木藤米吉の依頼に応じて同人の原告に対する五〇〇〇万円の債務につき保証したということもあり得ないものといつてよい。そして、右各甲号証の原本の作成経過につき、他に格別の主張、立証がないことに鑑みると、右各甲号証の原本は、作成の日付はもとより、その内容も虚偽のものであると推認するほかはない。

そうすると、甲第六号証、第一九号証の四によつて、津島己喜蔵が原告に対し五〇〇〇万円の保証債務を負担した事実を認めることはできないし、他に右事実を証するに足りる証拠はない。

以上によると、津島己喜蔵の保証債務の履行として五〇〇〇万円を受領した旨の原告の主張は採用するわけにはいかず、原告が収受した一億五〇〇〇万円はその全額が本件脱税工作の報酬として収受した収入であり、右収入は所得税法二三条ないし三四条に規定する収入のいずれにも該当しないので、雑所得に係る収入であると認められる。

(2) 受取利息

<1> 抗弁1の(一)の(2)の<2>の(ⅱ)、(ⅲ)の事実は、当事者間に争いがない。

<2> 原告が昭和五八年三月三〇日、金額一億〇〇〇二万円の預金小切手を割り引いたことは当事者間に争いがなく、前掲乙第二、第七、第九、第一二号証、成立に争いのない乙第一〇号証によれば、原告は一億円に対する日利八厘の割合による三日分の金額に端数の二万円を加えた二四二万円の割引料で右小切手を割り引いたことが認められる(ただし、右割引料は八二万円の限度で当事者間に争いがない。)。

これに対し、原告は、右預金小切手の割引料は八二万円であると主張し、成立に争いのない乙第一五号証には右主張に沿う原告の供述記載部分があるが、前掲各証拠中の右受取割引料に関する原告及び桜井恒雄の各供述記載部分は具体的であるのに比べ、乙第一五号証中のそれについては原告自身記憶が定かでない旨述べていることからすると、乙第一五号証中の受取割引料に関する原告の供述記載部分はにわかに措信できず、したがつて右主張は採用できない。その他、右認定を覆すに足りる証拠はない。

<3> 右<1>、<2>によると、原告が昭和五八年中に得た受取割引料収入の金額は合計三〇五万円となる。

(3) 受取利息

<1> 抗弁1の(一)の(2)の<3>の(ⅰ)ないし(ⅲ)の事実は、当事者間に争いがない。

<2> 原告が村上秀治に対し昭和五八年中に六〇〇万円を貸し付けたことは当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、成立に争いのない甲第五四号証の二、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すれば、原告は富成昭英を通じて村上秀治に対し、昭和五八年六月九日、六〇〇万円を月利三分の約定で貸し付けたこと、原告は右貸付けに関する取立事務を富成昭英に委任していたが、同人は貸付時に一月分の利息を天引きしており、その後は毎月九日ころに三六万円ずつ返済を受けていたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定によれば、原告は、村上秀治に対する貸付けに関して、昭和五八年六月九日に一か月分の利息一八万円を前払いにより収受し、それ以後は各月三分の割合による利息の前払い及び元本の返済として計三六万円を受領していたことが推認できる。そうすると、同年六月から一二月までの七か月間にわたり原告が約定により受け取つた利息は別表のとおり合計一一七万五六八五円となる(ただし、右の利息収入は四五万〇四二六円の限度で当事者間に争いがない。)。なお、村上秀治が支払つた右の利息は利息制限法に定める制限利率により計算した金額を超過するものであるが、既収のものであるから、右金額はその全部を昭和五八年分の収入金額として差し支えない。

<3> 右<1>、<2>によると、原告が昭和五八年中に得た受取利息収入の金額は合計七四三万六六八五円となる。

(4) 雑収入

抗弁1の(一)の(2)の<4>の事実は、当事者間に争いがない。

そうすると、原告が昭和五八年中に得た雑収入の金額は六〇万円である。

(5) まとめ

以上(1)ないし(4)によれば、原告の昭和五八年分における雑所得に係る収入金額の合計は一億六一〇八万六六八五円とする。

(二) 必要経費の金額について

(1) 一般の必要経費

<1> 抗弁1の(一)の(2)の<5>の(ⅰ)ないし(ⅳ)、(ⅵ)、(ⅸ)ないし(xi)の事実は、当事者間に争いがない。

<2> 接待交際費

(ⅰ) 抗弁1の(一)の(2)の<5>の(ⅴ)は、当事者間に争いがない。

(ⅱ) 原告は、右(ⅰ)のほかに、桜井恒雄に対し四二〇万円を接待交際費として支出したと主張し、成立に争いのない乙第二〇号証によれば、右四二〇万円の内訳は、桜井恒雄との飲食に要した支出三二〇万円と、飲食以外の桜井恒雄及びその家族に対する支出一〇〇万円であることが認められる。

ところで、前掲乙第一五号証、成立に争いのない乙第一一号証によれば、原告は、昭和五八年三月に本件脱税工作が終了した以降も同年一二月までの間に頻繁に桜井恒雄を飲食に誘い、相当額の飲食代を支払つていることが認められる。

しかし、右認定の飲食に要した金額を特定し得る証拠がないことのほかに、前掲各証拠によれば、原告と桜井恒雄との間には本件脱税工作が終了した以降仕事上の取引関係はなく、原告と桜井恒雄が飲食を共にしたのは、仕事に関連したものではなく、専ら、本件脱税工作を介して知り合つた原告らの個人的遊興として行われたものであつたことが認められ、前記認定の飲食に支出した代金等はすべて個人的費用というべきものであつて、家事関連費に該当するものであるから、原告の雑所得の計算上必要経費に算入することができない支出である。

また、前掲乙第一一、第一五号証によれば、原告は、昭和五八年中に、桜井恒雄及びその家族に対し、約一〇万円相当の絵、約八〇万円相当の貴金属製品、ハンドバツグ等を贈り、同人の妹の家の新築祝いとして一〇万円を支出したことが認められるが、しかしまた、前掲各証拠によれば、右支出等はいずれも個人的な関係での贈答品に係る支出であることが認められ、右支出等はすべて個人的費用というべきであつて、家事関連費に該当するものであるから、原告の雑所得の計算上必要経費に算入することができない支出である。

(ⅲ) 以上によれば、昭和五八年分の必要経費に算入される接待交際費は一五二万一〇〇〇円となる。

<3> 訴訟費用

(ⅰ) 抗弁1の(一)の(2)の<5>の(ⅶ)の事実は、当事者間に争いがない。

(ⅱ) 原告は、右(ⅰ)のほかに、訴え提起の手数料として三八二万三七〇〇円の収入印紙代を支出していると主張する。

前掲乙第一号証によれば、右金額は、原告は東京地方裁判所において提起した七億五〇〇〇万円の貸金請求事件の訴え提起に要する手数料の金額であることが認められるが、前掲乙第二号証によれば、原告は右手数料を納付しないまま右訴えを取り下げ、手数料を支出していないことが認められるので、右金額を必要経費に算入すべきであるとする原告の右主張は失当である。

(ⅲ) 以上によれば、昭和五八年分の必要経費に算入される訴訟費用は六万〇五四〇円となる。

<4> 支払手数料

(ⅰ) 抗弁1の(一)の(2)の<5>の(ⅶ)の(a)、(c)の事実は、当事者間に争いがない。

(ⅱ)(a) 抗弁1の(一)の(2)の<5>の(ⅶ)の(b)の事実は、当事者間に争いがない。

(b) 原告は、右(a)のほかに、河田信幸に対し五〇〇万円(右争いのない三〇〇万円と合わせると八〇〇万円)の手数料を支出していると主張し、前掲乙第二〇号証によれば、本件処分に対する異議申立てにおいても同趣旨の主張をしていることが認められ、前掲乙第一、第二号証及び原告本人尋問の結果中には右主張に沿う原告の供述記載部分及び供述部分がある。

しかし、成立に争いのない乙第一四号証によれば、河田信幸は原告からの本件脱税工作に関する謝礼金につき、昭和五八年三月一四日、原告から、本件脱税工作における働きに対する謝礼金として三〇〇万円及び無期限無利息の貸付けとして二〇〇万円の合計五〇〇万円を受け取つたこと、さらにその後、同年六月末ころまでに、二、三回にわたつて合計三〇〇万円位の貸付けを受けた旨、また、謝礼金が三〇〇万円であることにつき、本件脱税工作の話しが出る以前に、河田信幸は大森誠造に生じた民事紛争の処理の仕事を原告に紹介し、原告はこの紹介の謝礼金として河田信幸に三〇〇万円を支払う旨の約束をしていたところ、原告が関与することなく右の紛争が処理され、その代わりに河田信幸及び大森誠造を通じて本件脱税工作の依頼が原告にされたことから、右の約束がそのまま横流れして本件脱税工作に関して三〇〇万円の謝礼が河田信幸に支払われた旨供述しており、右供述は具体的かつ詳細である。また、前掲乙第一五、第一六号証には、河田信幸に対する謝礼金は全部で五〇〇万円である旨の原告の供述記載部分があり、右は原告の前記供述記載部分及び供述部分と一致しておらず、さらに、前記乙第一、第二号証中の謝礼金の算出根拠を説明する部分の供述内容もあいまいで、一貫していないことに照らすと、前記乙第一、第二号証及び原告本人尋問の結果中の供述記載部分及び供述部分はにわかに措信できない。

なお、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第五六号証の二、弁論の全趣旨により原本の存在及び成立の真正が認められる甲第三一号証の三は、河田信幸が原告から昭和五八年中に受領した金額は八〇〇万円であるとの趣旨の河田信幸から原告にあてた手紙であるが、右手紙は単に八〇〇万円を受領したというだけで、右金員の趣旨に関しては何ら触れるところがなく、また、右手紙の内容は、本件脱税工作に関して受領した謝礼金三〇〇万円と貸付金五〇〇万円とを併せて八〇〇万円を受領したとの前掲乙第一四号証の河田信幸の供述記載と矛盾しないものであつて、これを覆すものではないから、右各甲号証から直ちに原告の主張を認めることはできない。

その他、原告の右主張を基礎づけるに足りる事実は、本件全証拠によるも認められない。

(ⅲ) 次に、原告は、河他エイに対し本件脱税工作の口止料として一二五〇万円を支払つたと主張する。

しかし、前掲乙第一、第一四、第一六号証、原告本人尋問の結果(ただし、後記措信しない部分を除く。)によれば、原告が昭和五八年中に河田エイに交付した金額は、河田信幸のマンシヨン購入に関係するものを除き、同年三月に支払つた二二〇〇万円だけであり、原告が主張する一二五〇万円は右二二〇〇万円の一部を特に取り上げて主張しているものであること、しかし、河田エイは本件脱税工作に全く関与しておらず、原告は同人に対し本件脱税工作に係る収入に対する経費となるような謝礼金等を支払う必要は全くないこと、右二二〇〇万円は原告が河田エイに贈与した金員であり、贈与をした理由の一つに本件脱税工作の事実を知つている河田エイに対する口止料の趣旨が含まれたものであることが認められ、右認定に反する甲第三三号証の二(弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる。)及び右二二〇〇万円が貸付金である旨の原告本人の供述部分は前掲各証拠に照らし措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

そうすると、右主張にある一二五〇万円は原告が河田エイに贈与した金員の一部であり、何ら経費性のない支出である(なお、右認定に係る口止料の趣旨を含む点についても、口止料としての部分を確定し難いのみならず、そもそも口止料を必要経費とするのは相当ではない。)と認められるから、これを必要経費に算入すべきであるとの原告の右主張は失当である。

(ⅳ) 以上によれば、昭和五八年分の必要経費に算入される支払手数料は一〇二五万円とする。

<5> その他、一般の必要経費に算入される支出は、弁論の全趣旨に鑑み、無いものと認める。

<6> まとめ

右<1>ないし<5>によると、昭和五八年分の雑所得の計算上算入される一般の必要経費の金額は合計二〇四六万〇一九〇円となる。

(2) 商品取引損失

抗弁1の(一)の(2)の<6>の事実は、当事者間に争いがない。

そうすると、原告の昭和五八年分の商品取引損失の金額は四九三六万九五〇〇円である。

(3) 貸倒損失について

原告は、昭和五八年分における所得の計算上、債権の貸倒れがあるので、この貸倒損失を収入から控除すべきであると主張する。右主張は資産損失を主張するものであると解されるが、原告の同年分の総所得は、前記2の(一)の雑所得に係る収入及び後記3の利子所得に係る収入からなるものであるから、原告の同年分の所得の計算上、資産損失を計上し得るのは雑所得に関してだけである(所得税法五一条)。そして、雑所得の計算上資産損失として必要経費に算入されることが認められる債権の貸倒れは、雑所得を生ずべき業務の用に供され又は右所得の基因となる資産に該当する債権の貸倒れによる損失に限られ、また、右の貸倒損失を必要経費とすることができるのは、その貸倒損失が発生した日の属する年分の雑所得の計算において、かつ、雑所得の金額の範囲内に限られる(同条四項)。したがつて、原告が主張する債権の貸倒れが資産損失となるためには、その主張する債権が雑所得の生ずべき業務の用に供され又は右所得の基因となる債権であり、かつ、その貸倒れが昭和五八年中に発生したものでなければならない。そして、資産損失とする債権の貸倒れが認められるには、債務者が破産しあるいは私的整理に委ねられた場合等のほか、債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その債権の弁済を受けることができないと認められる場合において、債権者が債権放棄、債務免除等その債権を整理する意向を表明したとき、又は債務者の事業閉鎖、所在不明その他これに準ずべき事情が生じ、その債務者の資産状況、支払能力等からみて債権全額の回収の見込みがないことが確実になつたときであることを要すると解するのが相当である(右に当たるようなときを、以下「回収不能の状態」という。)。また、資産損失の恣意的な計上を許すことは相当ではないから、昭和五八年中に資産損失となる債権の貸倒れが発生したといい得るためには、同年中に当該債権につき右に述べたような回収不能の状態が初めて生じたものであることを要し、回収不能の状態が同年より前に生じていたり、あるいは、同年後になつて初めて生じたときは、同年分の所得の計算上、その債権の貸倒額を必要経費に算入することはできないものというべきである。

そこで、以下、原告が主張する債権につき検討する。

<1> 高原牧場株式会社関係

(ⅰ) 原告が高原牧場株式会社を被告として提起した東京地方裁判所八王子支部昭和五五年(ワ)第一五〇六号損害賠償請求事件において、昭和五八年一月一三日、同会社に対し二〇万円の支払を命ずる判決が出され、同判決が確定されたことは、当事者間に争いがない。

成立に争いのない乙第二二号証、原本の存在及び成立に争いのない甲第四七号証の二によれば、右判決で認容された債権の内容は、原告と高原牧場株式会社との間の昭和五一年一〇月二三日付け契約における債務の不履行により同年一一月一日に発生した違約金請求債権一〇〇万円の内金請求分全額の二〇万円であり、また、これについて昭和五五年一二月二八日を始期とする年五分の割合による遅延損害金の支払が命じられていることが認められる。

右の争いのない事実及び認定によれば、原告は高原牧場株式会社に対し、昭和五一年一一月当時、一〇〇万円の違約金債権を有していたものと推認でき、右債権のうち少なくとも二〇万円分については昭和五五年一二月二八日以降遅延損害金債権の発生が認められるものであるところ、これによる収入は雑所得となるから、右違約金債権は雑所得の基因となる債権といえる。

(ⅱ) ところで、前掲乙第一五、第二二号証によれば、高原牧場株式会社は、昭和五五年当時すでに事業を閉鎖して倒産状態にあることが認められ、右認定によれば、遅くとも同年ないしはその直後には、右違約金債権全額につき回収の見込みがないことが確実になつていたものと推認することができる。

したがつて、右違約金債権につき、昭和五八年より前に回収不能の状態が生じており、同年になつて初めて回収不能の状態が生じたものではない。

なお、前掲乙第二二号証、成立に争いのない甲第四七号証の一、乙第三二号証によれば、原告は、昭和五八年中に右(ⅰ)の判決に基づき動産に対する強制執行を申し立て、東京地方裁判所同年(執イ)第一四号事件として係属し、評価額二一万八〇〇〇円分の動産を差し押さえたことが認められるが、右各証拠によれば、右執行事件は、先順位の債権者がいたこと及び買受人が付かなかつたことなどのため、同年五月二〇日付け取下げの申立てにより終了したことが認められるから、右差押えの事実は前記判断を覆すものではない。

(ⅲ) そうすると、右違約金債権の貸倒額を昭和五八年分の雑所得の計算上必要経費に算入することはできない。

<2> 尾崎恭彦関係

(ⅰ) 原告が尾崎恭彦を被告として提起した静岡地方裁判所浜松支部昭和五二年(ワ)第九九号損害賠償請求事件において、同年一〇月一四日、同人に対し二〇万円の支払を命ずる判決が出され、同判決が確定したことは、当事者間に争いがない。

原本の存在及び成立に争いのない乙第三三号証によれば、右判決に係る債権の内容は、不法行為に基づく損害賠償としての慰謝料請求債権であり、また、これについて昭和五三年六月六日を始期とする年五分の割合による遅延損害金の支払が命じられていることが認められる。

右の争いのない事実及び認定によれば、右判決に係る債権には昭和五三年六月六日以降遅延損害金債権が発生しており、これによる収入は雑所得となるから、右判決に係る債権は雑所得の基因となる債権であるといえる。

(ⅱ) ところで、前掲乙第一五、第二二号証、弁論の全趣旨により成立の認められる乙第三四号証の一、二(ただし、乙第三四号証の二は原本の存在を含む。)によれば、尾崎恭彦は昭和五五年九月一一日ころ死亡し(ただし、この事実は当事者間に争いがない。)、尾崎克典を除く尾崎恭彦の相続人はいずれも相続の放棄をしたこと、その当時尾崎克典は資力がなく、また、相続財産にも見るべきものはなく、そのうちの不動産は、豊岡商事株式会社の申立てに係る静岡地方裁判所豊岡支部における不動産執行事件で換価され、その換価金は同社の債権の一部に配当されたにすぎないことが認められ、右認定によれば、右損害賠償債権は、昭和五五年当時すでにその全額につき回収の見込みがないことが確実になつていたものと推認することができ、右債権につき、昭和五八年になつて初めて回収不能の状態が生じたものということはできない。

(ⅲ) そうすると、右損害賠償債権の貸倒額を昭和五八年分の雑所得の計算上必要経費に算入することはできない。

<3> 丸藤興業株式会社関係

(ⅰ) 原告が丸藤興業株式会社を被告として提起した東京地方裁判所昭和五四年(ワ)第二九六一号損害賠償請求事件において、同年六月二六日、同社に対し五〇万円の支払を命ずる判決が出され、同判決が確定したことは、当事者間に争いがない。

原本の存在及び成立に争いのない乙第三五号証によれば、右損害賠償債権の内容は、同社の代表取締役であつた櫛引藤司の職務上の不法行為につき、同人と連帯して、商法二六一条、七八条二項、民法四四条一項に基づく法人の賠償責任が認められたものであり、また、これについて昭和五四年四月二〇日を始期とする年五分の割合による遅延損害金の支払が命じられていることが認められる。

右の争いのない事実及び認定によれば、右損害賠償債権には昭和五四年四月二〇日以降遅延損害金債権が発生しており、これによる収入は雑所得となるから、右損害賠償債権は雑所得の基因となる債権といえる。

(ⅱ) しかし、右損害賠償債権が昭和五八年当時回収不能の状態にあつたことを認めるに足りる証拠はない。

(ⅲ) そうすると、右損害賠償債権の貸倒額を昭和五八年分の雑所得の計算上必要経費に算入することはできない。

<4> 長嶋史朗関係

(ⅰ) 原告が長嶋史朗を被告として提起した葛飾簡易裁判所昭和五四年(ハ)第四九号寄託金請求事件において、同年一二月二〇日、同人に対し三〇万円の支払を命ずる判決が出され、同判決が確定したこと、原告が昭和五六年中に長嶋史朗から一三万円の返済を受けたことは、当事者間に争いがない。

原本の存在及び成立に争いのない甲第四八号証の二によれば、右判決で認容された債権の内容は、原告が、原告と長嶋史朗との間で昭和五一年六月四日締結した消費寄託契約に基づき寄託した六九〇万円につき同年七月三〇日返還請求をし、未返還分三八〇万円のうちの三〇万円につき返還請求したものであり、また、これについて昭和五四年六月二一日を始期とする年五分の割合による遅延損害金の支払が命じられていることが認められる。

右の争いのない事実および認定によれば、原告は長嶋史朗に対し三六五万円の寄託金返還債権を有していることが推認でき、右債権のうち少なくとも三三万円については昭和五四年六月二一日以降遅延損害金の発生が認められるところ、これによる収入は雑所得となるから、右寄託金返還債権は雑所得の基因となる債権といえる。

(ⅱ) ところで、前掲甲第四八号証の二、乙第一五、第二二号証、成立に争いのない甲第四八号証の一によれば、長嶋史朗は右訴訟が提起された昭和五四年当時に行方をくらまし、原告が前記一三万円の返還を受けた後の昭和五七年に右(ⅰ)の判決に基づき強制執行を申し立て、東京地方裁判所同年(執イ)第九二二七号事件として係属したが、差し押さえた財産の価値は殆どなく、また、その当時、同人は行方不明であつたことから、原告は、翌年の昭和五八年七月一一日に至つて右執行事件を取り下げたことが認められる。右認定によれば、右寄託金返還債権は、遅くとも昭和五七年中にその全額につき回収の見込みがないことが確実になつたものと推認することができる。

したがつて、右寄託金返還債権は、昭和五八年より前に回収不能の状態になつており、右債権につき同年になつて初めて回収不能の状態が生じたものではない。

(ⅲ) そうすると、右寄託金返還債権の貸倒額を昭和五八年分の雑所得の計算上必要経費に算入することはできない。

<5> 田島勇次関係

(ⅰ) 原告が田島勇次を被告として提起した東京地方裁判所昭和五二年(ワ)第八九八〇号事件において、昭和五三年三月三日、田島勇次が原告に対し三〇万円及びこれに対する昭和五三年九月末日から支払ずみまで年一割の割合による遅延損害金を支払う旨の和解が成立したこと、原告が田島勇次を相手方として申し立てた東京簡易裁判所日比谷分室昭和五四年(ロ)第一八八号支払命令申立事件において、同年三月二八日、田島勇次に対し四〇〇万円及びこれに対する同年五月九日から年五分の割合による遅延損害金の支払を命ずる命令が出され、同命令が確定したことは、当事者間に争いがない。

右争いのない事実によれば、右各債権には昭和五三年九月末日又は同年五月九日以降遅延損害金債権が発生しており、これによる収入は雑所得となるから、右各債権は雑所得の基因となる債権といえる。

(ⅱ) 前掲乙第一五、第二二、第三二号証、原本の存在及び成立に争いのない乙第三六号証の二、三、弁論の全趣旨により成立が認められる乙第三六号証の一及び弁論の全趣旨によれば、原告は、右(ⅰ)の各債権につき、昭和五四年七月二四日、原告の申立てに係る強制執行事件で七万〇一五二円の配当を受け、また、昭和五六年六月三日には二九万二〇〇〇円相当の動産を差し押さえ、さらに、昭和五七年一月に田島勇次が有する供託金五万円の返還請求権につき債権差押えをしていること、また、原告は田島勇次から、同年六月二〇日に一七万円、昭和五七年九月一日に五万円、同年一一月一七日に五万円の返済を受けていること、田島勇次は昭和六〇年当時は不動産ブローカーの業務に従事しており、現在も一定の職業に就いていることが認められ、右認定によれば、右(ⅰ)の各債権が昭和五八年に回収不能の状態にあつたとは到底認められない。

なお、原本の存在及び成立に争いのない甲第四九号証の一ないし三によれば、原告を債権者、田島勇次を債務者とする東京地方裁判所八王子支部昭和五八年(執イ)第二三四号事件が係属したが、右執行事件は昭和五八年一一月三〇日原告の取り下げにより終了していること、右当事者間の東京地方裁判所昭和五七年(ワ)第一二〇六七号事件の和解に基づく同庁昭和六〇年(執イ)第三一四二号事件が係属したが、右執行事件も同年八月六日に執行不能により終了していることが認められるが、右各執行事件が終了した事由となつた取下げ及び執行不能の理由が明らかでなく、田島勇次の資力状態が著しく悪化した状態にあつたことに基因するものであると認めるに足りる証拠はないので、右認定事実は前記判断を覆すに足りない。

また、成立に争いのない甲第一三号証の二(乙第三六号証の四の二の原本)、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第六二号証の二は、右(ⅰ)の各債権につき原告が昭和五八年中に債務免除した旨の記述がある田島勇次の手紙であるが、前掲乙第三六号証の一、成立に争いのない同号証の七、九、一〇の各一、二に照らすと、その内容の信憑性に疑いが持たれ、採用できないものであるほか、仮に原告が右(ⅰ)の各債権につき同年中に債務免除をしたとしても、その当時、右(ⅰ)の各債権が回収不能の状態にあつたと認めることができないことは先に認定したとおりである。

(ⅲ) そうすると、右(ⅰ)の各債権は、昭和五八年中には未だ回収不能の状態に達していなかつたから、右(ⅰ)の各債権の貸倒額を同年分の雑所得の計算上必要経費に算入することはできない。

<6> 株式会社丸富関係

(ⅰ) 原告が株式会社丸富を被告として提起した東京地方裁判所昭和五五年(ワ)第一三二〇六号事件において、昭和五六年三月二六日、同社に対し三〇〇万円の支払を命ずる判決が出され、同判決が確定したことは、当事者間に争いがない。

原本の存在及び成立に争いのない甲第五〇号証の三によれば、右判決に係る債権の内容は、株式会社丸富の代表者であつた菊池政敏の職務上の不法行為につき、同人と連帯して、商法二六一条、七八条二項、民法四四条一項に基づく法人の賠償責任が認められたものであり、また、これについて昭和五六年一月二八日を始期とする年五分の割合による遅延損害金の支払が命じられていることが認められる。

右の争いのない事実及び認定によれば、右判決に係る債権には昭和五六年一月二八日以降遅延損害金債権が発生しており、これによる収入は雑所得となるから、右判決に係る債権は雑所得の基因となる債権といえる。

(ⅱ) ところで、株式会社丸富が昭和五六年には事務所を閉鎖し、役員の所在が不明になつたことは当事者間に争いがなく、前掲乙第一五号証成立に争いのない甲第五〇号証の一、原本の存在及び成立に争いのない乙第三七号証によれば、原告は右判決に基づき強制執行を申し立て、東京地方裁判所昭和五六年(執イ)第二七六七号として係属したが、同年五月一五日執行不能により終了していること(ただし、甲第五〇号証の一にはその終了の日付が昭和五五年五月一五日となつているが、成立に争いのない甲第五〇号証の二、前掲甲第五〇号証の三に照らすと、右日付は誤記であり、昭和五五年とあるのは正確には昭和五六年であると認められる。)、さらに、原告は右判決に基づき再度強制執行を申し立て(ただし、この当時、株式会社丸富は商号をクラフトジヤパン株式会社に変更している。)、東京地方裁判所昭和六〇年(執イ)第三三八八号事件として係属したが、同年四月一七日、執行の目的物が存在せず、執行不能により終了していることが認められ、右認定によれば、株式会社丸富は、昭和五六年には事業を閉鎖して倒産状態にあり、その当時すでに右(ⅰ)の債権は回収の見込みがないことが確実になつていたものと推認することができる。

したがつて、右(ⅰ)の債権は、昭和五八年より前に回収不能の状態になつており、右債権につき同年になつて初めて回収不能の状態が生じたものではない。

(ⅲ) そうすると、右(ⅰ)の債権の貸倒額を昭和五八年分の雑所得の計算上必要経費に算入することはできない。

<7> 山和通商株式会社関係

(ⅰ) 原告が山和通商株式会社を相手方として申し立てた静岡地方裁判所浜松支部昭和五二年(ノ)第五〇号立替金支払調停事件において、同年五月二日、同社が原告に対し一五〇万円を支払う旨の民事調停が成立したこと、同社が右調停に基づく債務の履行を怠つたため、原告が同社を被告として提起した東京地方裁判所昭和五六年(ワ)第一二二四九号損害賠償請求事件において、昭和五七年二月二二日、同社に対し一五〇万円の支払を命ずる判決が出され、同判決が確定したことは、当事者間に争いがない。

原本の存在及び成立に争いのない甲第五一号証の二によれば、右判決に係る債権には、昭和五六年一一月二九日を始期とする年五分の割合による遅延損害金の支払が命じられていることが認められる。

右の争いのない事実及び認定によれば、右判決に係る債権には昭和五六年一一月二九日以降遅延損害金債権が発生しており、これによる収入は雑所得となるから、右判決に係る債権は雑所得の基因となる債権といえる。

(ⅱ) ところで、前掲甲第五一号証の二、乙第一五、第二二、第三二号証、成立に争いのない甲第五一号証の一、原本の存在及び成立に争いのない乙第三八、第三九号証によれば、原告が昭和五五年に右支払命令に基づき強制執行を申し立てたが、山和通商株式会社が同社の事務所所在地に存在せず、右執行事件は執行不能で終了したこと、右判決に係る訴訟事件では、同社に対する訴訟関係書類の送達は、同社の住所地ではなくその代表取締役個人の住所地に宛て行われているところ、同人から、同社は登記簿上記載があるだけで実体がない旨の主張がされていること、原告は右判決に基づき強制執行を申し立て、東京地方裁判所昭和六〇年(執イ)第三三八二号事件として係属し、二度にわたり動産の差押えを試みだが、同社がその所在地とされた場所に所在しておらず、右執行事件は執行不能で終了したことが認められる。

右認定によれば、山和通商株式会社は昭和五五年当時からその実体のない会社であり、右(ⅰ)の債権は、同年当時すでに回収の見込みがないことが確実になつていたものと推認することができる。

したがつて、右(ⅰ)の債権は、昭和五八年より前に回収不能の状態になつており、右債権につき同年になつて初めて回収不能の状態が生じたものではない。

(ⅲ) そうすると、右(ⅰ)の債権の貸倒額を昭和五八年分の雑所得の計算上必要経費に算入することはできない。

<8> 青野勘一関係

(ⅰ) 原告が青野勘一を被告として提起した東京地方裁判所昭和五三年(ワ)第四一二五号保証金返還請求事件において、同年七月二〇日、同人が原告に対し二〇〇万円を支払う旨の和解が成立したことは、当事者間に争いがない。

前掲乙第一五、第二二号証、成立に争いのない甲第五二号証の二、三によれば、右和解に係る債権の内容は、原告と青野勘一との間の東京地方裁判所昭和五一年(ワ)第八〇五六事件において、同人が原告に対し三〇〇万円の寄託金の返還義務があることを確認し、このうち一〇〇万円を昭和五三年一月三一日までに支払うものとし、右約定どおりに一〇〇万円が支払われた場合にはその余の債務を免除するという和解が成立したが、右一〇〇万円の支払が約定期日に遅れてされたため、原告は、再度、残金二〇〇万円全額につき返還訴訟を提起し、その訴訟において、青野勘一が原告に対し二〇〇万円の返還義務があることを確認し、このうち八万円を昭和五三年八月一五日に、一七万円を同年一〇月三一日に支払、右約定どおりに右各内金が支払われた場合には、その余の債務を免除するという旨の和解が成立したもので、利息の定めはないことが認められる。

右の争いのない事実及び認定によれば、右和解に係る二〇〇万円の債権については、少なくとも内金八万円に対する昭和五三年八月一五日以降、内金一七万円に対する同年一〇月三一日以降、それぞれ遅延損害金債権が発生しているものであり、これによる収入は雑所得となるから、右和解に係る債権は雑所得の基因となる債権であるといえる。

(ⅱ) 青野勘一が昭和五九年三月三〇日に死亡したことは当事者間に争いがなく、原告が右(ⅰ)の債権につき一五万七六一〇円の返済を受けていることは原告の自認するところであり、前掲乙第二二号証によれば、その返済を受けた時期は昭和五六年四月以降であることが認められるところ、右一部返済があつた後青野勘一が死亡するまでの間に、右(ⅰ)の債権の残額全部につき回収不能の状態になつたことを認めるに足りる証拠はない。

なお、成立に争いのない甲第五二号証の一によれば、原告は昭和五八年中に右(ⅰ)の二回目の和解に基づく強制執行を申し立て、東京地方裁判所同年(執イ)第一二号事件として係属した後、同年四月一三日に右執行事件を取り下げたことが認められるが、その取下げの理由は明らかでなく、青野勘一の資力状態が著しく悪化した状態にあつたことに基因するものであると認めるに足りる証拠はないので、右認定事実は前記判断を覆すに足りない。

(ⅲ) そうすると、右(ⅰ)の債権の貸倒額を昭和五八年分の雑所得の計算上必要経費に算入することはできない。

<9> 佐藤関係

(ⅰ) 原告が佐藤を被告として提起した東京地方裁判所八王子支部昭和五六年(ワ)第二八五号寄託金請求事件において、昭和五八年一一月二八日、同人に対し、二五〇万円の支払を命ずる判決が出され、同判決が確定したことは、当事者間に争いがない。

原本の存在及び成立に争いのない甲第五三号証によれば、右判決に係る債権の内容は消費寄託金返還債権であり、また、これについて昭和五七年二月一六日を始期とする年五分の割合による遅延損害金の支払が命じられていることが認められる。

右の争いのない事実及び認定によれば、右消費寄託金返還債権につき昭和五七年二月一六日以降遅延損害金債権が発生しており、これによる収入は雑所得となるから、右消費寄託金返還債権は雑所得の基因となる債権であるといえる。

(ⅱ) ところで、前掲乙第一五、第二二号証によれば、原告は、昭和五九年春ころ、小林利治を通じて右債権の取立てを行つたが、回収できなかつたことが認められ、右認定によれば、右消費寄託金返還債権は昭和五九年春ころには回収の見込みがない状態にあつたことが推認できないではないが、昭和五八年中にすでに回収不能の状態になつていた事実を認めるに足りる証拠はない。

(ⅲ) そうすると、右寄託金返還債権の貸倒額を昭和五八年分の雑所得の計算上必要経費に算入することはできない。

<10> 斎藤大三関係

(ⅰ) 原告が、原告の母三浦久代の斎藤滝三に対する受遺金債権五〇〇万円を相続し、斎藤滝三の相続人である斎藤大三を被告として仙台地方裁判所に提起した右受遺金の支払請求事件において、昭和五八年に同人が原告に三〇万円を支払、原告は残金四七〇万円を免除する旨の和解が成立したことは、当事者間に争いがない。

(ⅱ) ところで、右(ⅰ)の免除に係る債権が雑所得の基因となる債権であるかどうかはともかく、原告は右和解において斎藤大三から三〇万円の支払をうけていることに照らすと、その当時、同人につき債務超過の状態が継続し、原告において右(ⅰ)の免除に係る債権の返済を受けることができないと認められる場合であつたとは考えられず、他に右(ⅰ)の免除に係る債権が昭和五八年中に回収不能の状態にあつたことを認めるには足りる証拠はない。

(ⅲ) そうすると、その余りの点につき判断するまでもなく、右(ⅰ)の免除に係る債権の貸倒額を昭和五八年分の雑所得の計算上必要経費に算入することはできない。

<11> 河田信幸関係

(ⅰ) 前掲乙第一四号証、原告本人尋問の結果によれば、原告は河田信幸に対し、昭和五八年三月一四日に二〇〇万円、同年六月ころに合計三〇〇万円を貸し付けたこと、原告は、同月下旬ころ、河田信幸のマンシヨン購入資金として同人及び河田エイに対し、連帯して五五〇万円を貸し付けたことが認められる。

右認定によれば、原告は河田信幸に対し、昭和五八年中に少なくとも一〇〇〇万円を超える貸付債権を有していたことが認められる。

(ⅱ) 前掲乙第三二号証、成立に争いのない甲第二八号証、原告本人尋問の結果によれば、原告は河田信幸及び河田エイとの間の東京地方裁判所昭和六〇年(ワ)第四一九一号事件において、同年七月二二日、それまでの河田信幸に対する貸金債権につき、河田信幸及び河田エイが原告に対して七〇〇万円を連帯して支払う義務があることを確認し、右金額の内一〇〇万円を昭和六〇年九月から昭和六九年まで五〇〇〇円宛分割して支払い、右約定どおりに支払があつた場合には、原告はその余の債務を免除する旨の和解が成立し、その後、原告は三七万円の支払を受けていることが認められ、また、前掲乙第二二号証によれば、原告は昭和五九年以降においても右和解による債権を取り立てる意思を有していることが認められる。

右認定にある原告及び河田信幸の間の債権取立状況に照らせば、河田信幸に対する右貸付債権が昭和五八年中に回収不能の状態にあつたことを認めることはできないというべきである。前掲乙第一五号証中にある右債権の回収不能に関する原告の供述記載部分は右認定に照らし措信できず、他に右債権が同年中に回収不能の状態にあつたことを認めるに足りる証拠はない。

(ⅲ) そうすると、その余の点につき判断するまでもなく、河田信幸に対する貸金債権の貸倒額を昭和五八年分の雑所得の計算上必要経費に算入することはできない。

<12> 河田エイ関係

(ⅰ) 成立に争いのない甲第二九号証によれば、原告は河田エイを被告として提起した東京地方裁判所昭和六〇年(ワ)第四四四五号事件において、同年七月二二日、河田エイが原告に対し一五五〇万円の債務が存在することを確認する旨の和解が成立したことが認められる。

ところで、原告本人尋問の結果によれば、原告が河田エイに対し昭和五八年三月ころ贈与した二二〇〇万円は本件脱税工作の口止料の趣旨を含むものであつたが、河田エイが参考人として警察官及び検察官の取調べを受けた時に本件脱税工作の事実を供述したことが右趣旨に反するものであつたことから、原告において昭和六〇年中にそのうちの一五五〇万円の返還を求め、右訴訟事件を提起するに至り、河田エイの納得を得て右和解が成立したことが認められる。

なお、原告はその本人尋問において、右二二〇〇万円を贈与する際に、本件脱税工作を他に漏らしたときはその全額を返還する旨の条件が付されていた旨供述するが、前掲甲第三三号証の二に照らし措信できない。

そうすると、右和解に係る債権は、右和解によつて生じたものであつて、昭和五八年中には発生していないものであるから、その余の点につき判断するまでもなく、右和解に係る債権の貸倒額を昭和五八年分の雑所得の計算上必要経費に算入することはできない。

(ⅱ) 前記<11>の(ⅰ)で認定した原告の河田信幸及び河田エイに対する五五〇万円の連帯債権については、同(ⅱ)で判示したとおり、昭和五八年中に回収不能の状態にあつたことが認められないから、その余の点について判断するまでもなく、右債権についても、その貸倒額を昭和五八年分の雑所得の計算上必要経費に算入することはできない。

(ⅲ) 原告は、河田エイが富成昭英から借り入れた二〇〇万円につき、昭和五八年三月、河田エイに代わつて立替払をしたと主張するが、右事実を認めるに足りる証拠はない。

したがつて、右立替金債権の貸倒れの主張は失当である。

<13> 西新宿物産株式会社関係

(ⅰ) 前掲乙第一四号証、成立に争いのない甲第二五号証の一、二、乙第二三号証によれば、原告は、西新宿物産株式会社及び同社代表取締役の海谷侑宏を被告として、同人を主債務者、同社を連帯保証人として昭和五八年五月中に三回にわたり貸し付けた合計六五〇万円の支払を求める東京地方裁判所昭和六一年(ワ)第九二三九号貸金等請求事件を提起し、昭和六三年一月二九日、これが全部認容された上、内金三〇〇万円に対する昭和五八年七月一九日から、内金一〇〇万円に対する同月二三日から、内金五〇万円に対する同年八月六日から、内金一〇〇万円に対する同月七日から、それぞれ年五分の割合による遅延損害金の支払を命ずる判決を受け、同判決が確定したこと、右判決に係る海谷侑宏が負担する貸金債務には利息の約定がないことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定によれば、原告が西新宿物産株式会社に対し有していた債権は、海谷侑宏が主債務者である無利息貸付債権の保証債務の履行請求債権であるが、右無利息貸付債権には遅延損害金の発生が認められ、これによる収入は雑所得となるから、右保証債務の履行請求債権も雑所得の基因となる債権であるといえる。

(ⅱ) ところで、原告の西新宿物産株式会社に対する債権は、主債務者海谷侑宏に対する無利息貸付債権の保証債務履行請求債権であることは右(ⅰ)で認定したところであるから、保証債権の性質上、これが回収不能であつても、主債務者に対する債権が貸倒れにならない限り、その回収不能は資産損失とならないものである。

前掲乙第一四、第二三号証によれば、西新宿物産株式会社は昭和五八年七月中旬ころ銀行取引停止処分を受け、そのころ倒産状態になつたことが認められる。しかし、主債務者である海谷侑宏に対する右無利息貸付債権が昭和五八年中に回収不能の状態にあつたことを認めるに足りる証拠はない。

(ⅲ) そうすると、原告の西新宿物産株式会社に対する債権の貸倒額を昭和五八年分の雑所得の計算上必要経費に算入することはできない。

(4) まとめ

以上によれば、原告の昭和五八年分のおける雑所得の計算上必要経費に算入される金額の合計は六九八二万九六九〇円となる。

(三) 右(一)、(二)によると、原告の昭和五八年分の雑所得の金額は九一二五万六九九五円となる。

3  利子所得

抗弁1の(一)の(3)の事実は、当事者間に争いがない。

そうすると、原告の昭和五八年分の利子所得の金額は二〇万六〇九一円である。

4  その他の控除額について

原告は、昭和五八年三月、川田エイに対し、同人から借り受けていた二二〇〇万円を返済したので、右金額は原告の所得金額の計算上収入金額から控除されるべきであると主張する。

しかし、仮に原告が河田エイに対し二二〇〇万円の債務を負担し、それを返済したとしても、それは借受金元金の弁済金に過ぎず、経費性を有するものではないので、これを所得の計算上収入金額から控除すべきであるとする右主張は、それ自体失当であり、また、実質的にも、原告が昭和五八年三月に河田エイに渡した二二〇〇万円は前記2の(二)の(1)の<4>の(ⅱ)で認定したとおり贈与金であるから、右支出を原告の所得の計算上必要経費に算入することはできない。

5  右1ないし4によれば、原告の昭和五八年分の総所得金額は九一四六万三〇一四円となる。

三  本件処分の適法性について

1  本件更正の適法性について

(一) 原告は、本件更正の手続には本件念書等を判断の資料にしなかつた違法があると主張するが、成立に争いのない甲第五号証、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、被告署長が本件更正を行うに当たつて行つた税務調査において本件念書等も証拠資料として収集し、知悉していたこと、しかし、被告署長は、本件念書等が偽造文書であるとして所得金額の計算上証拠としてこれを取り上げなかつたことが認められる。

右認定によれば、本件更正に際し、本件念書等が全く考慮されなかつたという事実はなく、また、本件念書等である甲第六号証(甲第一二号証の三、第一九号証の二)及び第一九号証の四は、先に認定したとおり、証拠価値がないものであるから、これを証拠資料として取り上げなかつたことが手続上違法となるとは考えられない。したがつて、原告の右主張は失当である。その他、本件全証拠によるも、本件更正における手続上の瑕疵の存在を窺わせる事実は認められない。

(二) 前記二のとおり、原告の昭和五八年分の総所得金額は九一四六万三〇一四円であると認められるところ、本件更正の総所得金額八七八二万四一六九円はその範囲内のものである。

(三) 以上によれば、本件更正は適法であるといえる。

2  本件賦課決定の適法性について

前記一の争いのない事実及び二の2の(一)の(1)の<1>の認定によりば、原告は、本件脱税工作により受領した報酬一億五〇〇〇万円に係る所得税を免れる目的で、原告を貸主、木藤米吉を借主、津島己喜蔵及び桜井恒雄を連帯保証人とする七億五〇〇〇万円の金額消費貸借契約書を偽造し、さらに、右債権が存在するかのように仮装した上、原告が受領した右報酬の一部を貸付債権に係る回収金のように仮装し、右報酬を収入金額に計上しないで本件申告をしたことが認められる。右は、国税通則法六八条一項に規定する重加算税の賦課要件を満たすものであるから、過少申告加算税の賦課に代えて重加算税を賦課したことに違法はなく、本件更正により新たに納付すべきこととなつた税額五〇九〇万円(同法一一八条三項の規定により一万円未満切捨て)に重加算税の算出割合である一〇〇分の三〇を乗じると一五二七万円となり、これと重加算税額が同額である本件賦課決定は適法である。

第二本件裁決の取消請求

一  原告は、本件裁決の違法事由として審理手続上の違法事由と内容上の違法事由を主張するが、行訴法一〇条二項は行政処分の取消しの訴えとその処分についての審査請求を棄却した裁決の取消しの訴えを提起することができる場合には、裁決の取消しの訴えにおいては処分の違法を理由として取消しを求めることができない旨定めており、右の裁決の取消しの訴えにおいては当該裁決の固有の違法事由に限り主張することができるにすぎない。右の裁決固有の違法事由としては、裁決の主体、手続、形式に関するものがあるが、原告が本件裁決の内容上の違法として主張する事項は、課税標準の多寡に係る事項であり、これは本件裁決の原処分である本件更正の違法を理由とするものにほかならず、右規定により本件裁決の違法事由とすることはできないから、原告の右主張は失当である。

二  審理手続上の違法について

原告は、本件裁決の審理において本件念書等が証拠資料として考慮されず、また、原告に有利な資料を取り調べなかつた違法があると主張する。

しかし、前掲乙第二〇号証、成立に争いのない乙第一八号証及び弁論の全趣旨によれば、本件裁決の審理資料として本件念書等が提出されていたこと、本件裁決は、本件念書等の存在に係る原告の津島己喜蔵に対する保証債務の存否、貸倒損失など原告が主張した異議事由についてもれなく審理した上で判断していることが認められ、右認定によれば、原告が主張する手続上の違法はないというべきである。その他、本件全証拠によるも、本件裁決固有の瑕疵の存在を窺わせる事実は認められない。

三  以上によれば、本件裁決は適法であるといえる。

第三結論

よつて、原告の本件請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鈴木康之 裁判官 佐藤道明 裁判官 青野洋士)

別表

村上秀治に係る受取利息

<省略>

注:*は利息につき円未満切捨て

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